研究テーマ設定の背景
生活習慣病を予防・改善するために至適な運動とは、という研究していま した。しかし、「運動がからだによい」と説明しても誰も運動を始めないし持 続できません。要するに、人は体に良いー悪いだけでは運動を行わないとい うことです。そこで、最近は運動がからだにいいとか悪いとかではなく「人が 運動したくなる場」の追求を最終目標にして研究に取り組んでいます。
研究手法
人と対象とした運動実験を行っています。
調査対象や調査地についての解説
調査対象:あくまでもヒト。 調査地:実験室から、ネパールの山村まで、ヒトがいるところならどこへで も。
分析のためのソフトウェアやツール
特殊な分析ツールは使用していません。分析ができるだけシンプルになる ように研究計画を立てています。
研究についてのこだわり
良寛さんの嫌いなもの、 「書家の書」「歌詠みの歌」「料理人の料理」、研究も然り。
研究生活で最もわくわくしたこと、逆に最も落ち込んだこと
わくわくすることは、自身で立てた仮説以上のことや、仮説とまったく逆の 結果が出た時です。人間を対象としているので、全員が同じ変化を示さない ことに面白みを感じます。また、インターネットがなかった時代、書いた論文 のコピーがほしいと、遠い国から手紙が来たりするとうれしかったですね。落 ち込むことは特にありませんが、あえて挙げるとするなら、これだけ面白い 研究なのになんで研究費がつかないかな~、という落ち込みは毎度のこと。
研究生活で出会った印象的な人物やエピソード
印象に残っている人物は、やはり現在の生活 に導いた?学部ゼミ?大学院時代の指導教官で す。いつも「炊事や洗い物が嫌いなら生化学はで きない」と言っていたことを覚えています。私た ちの研究室は実験食をつくり、食べさせ、血液や 尿を採って測定するというところでした。とんで もない数の試験管が使われ(バケツ単位)、貧乏 なので、それを洗って乾燥させて使うという作 業を繰り返していました。正月は毎年、築地から ブリ、スズキ、タイ等が丸ごと届き、実験室でさ ばいて食べたり、突然「鯉を食べよう」と言われ、 生きた鯉を買いに行き、実験室で包丁を振るっ て、洗いや鯉こくまで作ってしまう行動力?のある面白い性格の持ち主でした。学会では一番前に座って、厳しい質 問をする反面、学会に行ったら観光しろ、何しに来たんだといっては、自分も夜の街に消えてしまうような先生でし た。この辺は私もまねてます。
大学院生へのメッセージ
大学の時は遊んでいたのだから、大学院でしっかり勉強しましょう。私も学部時代は部活(ラグビー)中心の生活を 送っており、大学院に入ってやっと学生らしい生活になりました。特に、健康行動学コースの学生は体育会系が多い ので、楽しく学んでみましょう。
大学院生の時何をしていたか
とにかく毎日大学に足を運び、1日中研究室にいました(何をしていたというわけでもなく)。当時はまだインター ネットもなく、パソコンも計算のためだけにあり、ワープロは専用機の方が充実していたような時代です。ただ、(授 業)→部活→寝るという生活に研究や勉強が加わったことは大きな変化で、この時代が今につながっているようで す。
学際連携についての思い
人が動くということに全て関わる健康行動学は、それ自体が学際であると思います。教育、心理、建築、他の科目の 学際連携を見ていると、いろいろな連携の仕方があって面白いと感じます。ただ、その面白さが学生に伝わっている かというと、ちょっと疑問かと。
今後の研究・実践活動について
運動に対し、生理的側面だけでなく、感情や行動科学の側面を加え「運動したくなるようなモデル(環境)づくり」を 研究していきたいと思います。難しいかもしれませんが、「運動がしたくなるような仕掛け」を求めていきたいと思い ます。キーワードは「アフォーダンス(環境が動物に提供するもの)」です。
おすすめの文献
古人の跡を求めず、古人の求めたるところを求めよ(芭蕉)
○「巨人伝」津本 陽
○「インスリンの発見」マイケル ブリス
○「日本を愛した科学者―スタンレー・ベネットの生涯」加藤 恭子


活動概要
研究の概要
中高年者でのいわゆる成人病の蔓延とその低年齢化に対し、運動は有効な改善手段の1つであることが認められ、その方法論が運動処方として確立しつつある。特に近年ではこれまで成人病と呼ばれてきた種々の疾患が、生活習慣に深く関わっていることから、健康的な生活習慣を確立することによる、健康増進や発病予防といった一次予防の重要性が叫ばれている。運動は健康的な生活習慣を確立する上で有効な手段となりうるが、その継続や生活化は難しく、有用な運動処方も実行されなければ絵に描いた餅にすぎない。そこで我々はまず、今日の運動処方において欠落している運動が継続するための理論的モデルを作成し、これを生理的・心理的側面から検討している。生理的側面としては従来の運動強度や時間といった単発の効果重視の処方に対し、そのような効果がより早く得られ、次の運動への動機付けとつながるような効果発現の効率を重視してきた。また、心理的側面としては運動の継続要因として、運動により得られる快に焦点を当て、これが一過性の運動を継続へと促す可能性を検討している。 さらに、これらをベースとしつつ、生理的側面に対するさらなるアプローチとして、ジュニアおよびプロアスリートに対する栄養学的側面からのサポートを含む調査研究やショウガ、お茶といった従来から用いられてきた食品成分の新たな効用開発する研究へと発展している。

教育の概要
生活習慣病の低年齢化と人口の高齢化は否応なしに健康に対する関心と必要性を高めている。大学院人間環境学府行動システム専攻では、研究内容を学生にフィードバックしつつ、学生とともに、新たな研究テーマ、フィールドを模索、検証している。学部学生に対しては、健康・スポーツ科学科目を担当し、健康・スポーツ科学講義と健康・スポーツ科学実習を通して、人間生活の基本としての健康・体力、そして生活文化としての身体運動・スポーツに関する正しい知識と実践能力の獲得を促している。

社会活動の概要
一般の人に対しては、各種団体が主催する健康セミナー等での講習会や講演を通じて、健康な生活と運動・スポーツとの関わりについて、解説している。また、スポーツでの競技力の向上を目指す人に対しても体力の測定やトレーニングの方法論について解説をしている。